童謡『虫の声』歌詞全文と消えたキリギリスの真相【2026年最新考察】
秋の夕暮れ、どこからともなく響く虫の音に耳を澄ませる季節になると、幼稚園や小学校、地域の音楽会で必ず歌い継がれてきた名曲が文部省唱歌『虫のこえ(虫の声)』です。「あれ松虫が鳴いている」「チンチロチンチロチンチロリン」という軽快な擬音(オノマトペ)は、世代を超えて日本人の原風景として深く根付いています。しかし、この親しみ深い唱歌には、かつて教科書の改訂によって登場する虫そのものが変更された劇的な歴史が存在します。
幼少期に歌った記憶をたどる大人たちの中には、「あれ、歌詞にキリギリスが出てこなかったっけ?」「コオロギとウマオイ、どっちが正しいの?」と記憶の食い違いに戸惑う声が少なくありません。2026年の現在、学校教育や国語・音楽の教科書研究においても、この「歌詞変更のミステリー」は日本の近代教育史と自然観の変遷を物語る貴重な題材として再注目されています。本稿では、1番・2番の歌詞全文を子供向けひらがな付きで掲載するとともに、昆虫学的・歴史的アプローチから歌詞改訂の決定的真相を解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:童謡『虫のこえ』は1912年発表の文部省唱歌であり、1番に「松虫・鈴虫」、2番に「クツワムシ・ウマオイ」の計4種類が登場する。
- 要点2:初出時の2番には「きりぎりす」が登場していたが、「鳴き声が生態と合わない」という理科的正確性を理由に、昭和初期の改訂で「うまおい」へと差し替えられた。
- 要点3:古語における「きりぎりす=現代のコオロギ」という呼称のねじれや、虫の音を「声」として言語的に受容する日本文化の独自性が歌詞の奥深さに繋がっている。
童謡『虫のこえ』歌詞全文|1番・2番のひらがな表記と鳴き声の順番
まずは基本となる歌詞の全容を確認します。文化庁や文部科学省の公認テキスト、音楽教科書で標準とされている現行の歌詞は以下の通りです。小さなお子さまと一緒に歌えるよう、総ひらがな表記も併記しました。
1番の歌詞(漢字表記・ひらがな表記)
あれ 松虫が 鳴いている
チンチロ チンチロ チンチロリン
あれ 鈴虫も 鳴き出して
リンリン リンリン リインリン
秋の夜長を 鳴き通す
ああ おもしろい 虫のこえ
【ひらがな表記】
あれ まつむしが ないている
ちんちろ ちんちろ ちんちろりん
あれ すずむしも なきだして
りんりん りんりん りいんりん
あきのよながを なきとおす
ああ おもしろい むしのこえ
2番の歌詞(漢字表記・ひらがな表記)
あれ クツワ虫も 鳴き出して
ガチャガチャ ガチャガチャ ガチャガチャッ
あれ 馬追いも 追いかけて
チョンチョン チョンチョン スイッチョン
秋の夜長を 鳴き通す
ああ おもしろい 虫のこえ
【ひらがな表記】
あれ くつわむしも なきだして
がちゃがちゃ がちゃがちゃ がちゃがちゃっ
あれ うまおいも おいかけて
ちょんちょん ちょんちょん すいっちょん
あきのよながを なきとおす
ああ おもしろい むしのこえ
歌い出しから登場する虫の順番は、「松虫(チンチロリン) → 鈴虫(リンリン) → クツワムシ(ガチャガチャ) → ウマオイ(スイッチョン)」の4匹です。テンポよく繰り出される豊かな擬音語は、明治期の子どもたちに向けた情操教育の最高峰と評価されてきました。

【歴史の真相】なぜ歌詞から「きりぎりす」が消えたのか?改訂の決定的経緯
「子どもの頃に、きりぎりすという歌詞で歌った記憶がある」と語る方が今も大勢います。この記憶は決して勘違いではありません。歴史的事実として、かつて教科書にははっきりと「きりぎりす」が掲載されていました。
本楽曲は、1912(明治45)年に文部省が発行した『尋常小学唱歌 第三学年用』に掲載されたのが初出です。作詞は児童文学者の林柳波、作曲は井上武士などの説が有力視されていますが、当時の文部省編纂物の方針により公式には「作詞・作曲:文部省唱歌」とクレジットされています。そして、この明治45年発表時の2番の歌詞は以下のようなものでした。
「あれ きりぎりすも 鳴き出して/チョンチョン チョンチョン スイッチョン」
発表当時、子どもたちは「きりぎりす」と元気いっぱいに歌っていたのです。しかし、大正から昭和初期にかけて教育現場や昆虫学者から決定的な矛盾が突きつけられました。
「キリギリスは『スイッチョン』とは鳴かない。スイッチョンと鳴くのはウマオイである」という極めて客観的な生物学的事実です。実際のキリギリスの鳴き声は「ギーーー・チョン」と聞こえるのが一般的であり、「シチョン、シチョン(スイッチョン)」と規則正しく鳴くのは明らかにウマオイ(ハヤシノウマオイ/バタケノウマオイ)の生態でした。
近代教育における「理科教育と音楽教育の整合性」を重んじた文部省は、1932(昭和7)年発行の『新訂尋常小学唱歌』において、歌詞を「きりぎりす」から「うま追ひ(馬追い)」へと正式に改訂しました。この改訂により、「きりぎりす」は学校教育の公式テキストから完全に姿を消すこととなったのです。
登場する虫と鳴き声を徹底比較|生態データとオノマトペの検証
歌に登場する虫たちの実際の生態と、歌詞で表現されたオノマトペ(鳴き声の擬音表現)を比較検証すると、先人たちの研ぎ澄まされた観察眼と、時代による分類の揺らぎが鮮明に浮かび上がります。
| 登場する虫 | 実際の生態・音響周波数データ | 歌詞の表現(鳴き声) | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| 松虫(マツムシ) | 草地に生息。周波数約4.5kHz前後の高澄んだ連続音。 | チンチロ チンチロ チンチロリン | 金属的でリズミカルな音色を実に見事に言語化している。 |
| 鈴虫(スズムシ) | 林床に生息。約4.5kHz。鈴を振るような澄んだ単音の連続。 | リンリン リンリン リインリン | 日本文化における秋の象徴。音の伸びを「リインリン」で巧みに表現。 |
| クツワムシ | 葛などの生い茂る藪に生息。重低音を含む濁音混じりの連続発音。 | ガチャガチャ ガチャガチャ ガチャガチャッ | 馬の轡(くつわ)が擦れ合う騒々しい音を的確に捉えた秀逸な描写。 |
| ウマオイ(馬追い) | 樹上や茂みに生息。ハヤシノウマオイは「スィーーチョン」と明瞭に鳴く。 | チョンチョン チョンチョン スイッチョン | 改訂によって生物学的正確性を獲得。リズミカルな跳ね感が心地よい。 |
| (旧)キリギリス | 昼行性で日当たりの良い草原に生息。「ギース・チョン」と鳴く。 | (旧歌詞でスイッチョンと表記) | 夜に鳴く虫の情景やオノマトペとのズレから、1932年に除外された。 |
表から明らかな通り、1番の松虫・鈴虫が高音域の澄んだ響きを担当し、2番のクツワムシ・ウマオイが濁音やリズミカルなアクセントを担うという、合唱曲としての極めて緻密な音響バランスが計算されています。

【実態検証】教育現場と大人の記憶のギャップ|「こおろぎ」と歌った記憶の謎
SNSやネット掲示板、知恵袋などで定期的に巻き起こるのが、「虫の声に『こおろぎ』が出てきたはずなのに、歌詞を見たらどこにもいない」という混乱です。取材を進めると、この記憶のズレには二重の歴史的背景が横たわっていることが判明しました。
第一の要因は、古典文学における「キリギリス」と「コオロギ」の名称逆転現象です。『万葉集』や『古今和歌集』、百人一首(後京極摂政前太政大臣の「きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに…」など)に登場する「きりぎりす」は、実は現在の「コオロギ」を指しています。古代から中世の日本では、秋に床下などで「コロコロ」「キリキリ」と鳴く虫全般を「きりぎりす」と呼び、草むらで鳴く虫を「こおろぎ」と呼ぶなど、名辞の逆転や混用が日常茶飯事でした。明治の作詞者たちが虫の選定を行う際にも、古典的な情緒と近代昆虫学の分類との間でイメージの交錯が生じていたと推測されます。
第二の要因は、市販の童謡絵本や民放テレビ番組、知育レコードにおける表記のブレです。昭和30〜40年代に制作された民間のレコードや幼児向けソングブックの中には、文部省の教科書改訂を知らない、あるいは「ウマオイという虫は子供に馴染みが薄い」と判断した編集者によって、独自に「こおろぎ」や「きりぎりす」のまま印刷・録音された版が複数流通していました。幼少期にそれらのコンテンツに触れた世代が、「確かにコオロギと歌っていた」と記憶を上書きされる結果を生んだのです。
一般に知られていない盲点とネットの誤解|「ウマオイ」の正体と狂暴な生態
歌詞の中で「チョンチョン チョンチョン スイッチョン」と実に愛らしく歌われるウマオイですが、その生物としての素顔を知る人は多くありません。ここには童謡の牧歌的な世界観とは対極にある、自然界のリアルな生態が隠されています。
まず、「馬追い」という風情ある名前の由来についてです。夜の静寂の中に響くその鳴き声が、「馬を引く馬子(まご)が、馬を追うときに鳴らす掛け声や鞭の音、馬の足音に似ている」ことから名付けられました。先人たちの生活の中に馬が深く溶け込んでいた時代だからこそ生まれた情緒的なネーミングです。
しかし、生物学的な分類を見ると、ウマオイ(ハヤシノウマオイ・バタケノウマオイ)はバッタ目キリギリス科に属する獰猛な肉食性昆虫です。草を食むバッタとは異なり、鋭いトゲが生えた強靭な前脚を使い、他の小昆虫やガの幼虫、時には同種すら捕食します。飼育ケースに他の鳴く虫と一緒に入れると、夜の間に他の虫を食い尽くしてしまうほどのハンターです。秋の夜長を静かに楽しむ歌の裏に、生きた小動物を貪る獰猛な肉食昆虫が配されているという事実は、現代の昆虫ファンにとっても興味深いギャップとなっています。
【プロの結論】日本人の自然観と近代化が生んだ「童謡の進化」
唱歌『虫のこえ』の変遷を振り返ると、そこには単なる「歌詞の間違い探し」を超えた、日本人の精神史の軌跡が刻まれています。
西洋言語圏においては、虫の音は「ノイズ(雑音)」として右脳で処理される傾向が強いのに対し、日本語話者は虫の鳴き声を人間の言語と同じ左脳で「声(メッセージ)」として聞き取る脳機能の特性が東京医科歯科大学の名誉教授らの研究でも知られています。日本人は古来、虫を単なる標本として客観視するのではなく、秋の哀愁を分かち合う「対話相手」として愛でてきました。
その豊かな自然観の中に、明治以降の近代国家が目指した「科学的合理性」が流入したことで起きた象徴的な出来事こそが、「きりぎりすからウマオイへの改訂」でした。詩的な情緒を損なうことなく、科学の視点を取り入れてアップデートを遂げた『虫のこえ』は、情緒と理性が美しく調和した日本の近代唱歌の到達点と言えます。

童謡『虫のこえ』楽譜とピアノ伴奏のコツ|子供と一緒に楽しむポイント
家庭や教育現場で『虫のこえ』をピアノ伴奏し、子どもたちと楽しむための実践的な演奏アプローチを整理します。この楽曲はハ長調(Cメジャー)またはヘ長調(Fメジャー)で書かれることが多く、初心者でも取り組みやすい構成です。
伴奏を生き生きと聴かせる最大の秘訣は、「オノマトペ部分のアーティキュレーション(音のつなぎ方・切り方)の明確な弾き分け」にあります。
- 松虫(チンチロリン):軽やかなスタッカートで指先を鍵盤から弾ませ、金属的な澄んだ余韻を意識して高音域で奏でます。
- 鈴虫(リインリン):2拍目や4拍目の伸びる音をしっかりとレガート(滑らかに)で歌わせ、鈴の余韻が夜空へ消えていく情景を表現します。
- クツワムシ(ガチャガチャ):やや左手の低音部を強調し、重々しいマルカート(音をはっきりと力強く)で荒々しさを演出します。
- ウマオイ(スイッチョン):付点リズムを鋭く刻み、最後の「チョン」でスッと音を切ることで、草むらを飛び跳ねる躍動感を再現します。
情景を頭に浮かべながら鳴き声を弾き分けることで、単調になりがちな唱歌の演奏が、まるで秋の野原に迷い込んだかのような豊かなアンサンブルへと生まれ変わります。
【虫 の 声 歌詞】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:歌い出しの「あれ松虫が」の「あれ」にはどのような意味があるのですか?
A1:ここでの「あれ」は、遠くのものを指す指示代名詞ではなく、「おや、まあ」「ほら、あそこに」といったニュアンスの注意を促す感動詞(間投詞)です。「静かな秋の夜、ふと耳を澄ませると、ほら、松虫が鳴き始めたよ」と、聴き手に情景を指し示す役割を果たしています。
Q2:なぜ日本を代表する鳴く虫である「コオロギ」が歌詞に入っていないのですか?
A2:確たる公式文書は残されていませんが、文部省唱歌の編纂において「音色の明確なキャラクター分け」が重視されたためと考えられます。コオロギ(エンマコオロギ等)の「コロコロコロ」という鳴き声は鈴虫や松虫の音響帯と近いため、より個性的でインパクトのあるクツワムシ(ガチャガチャ)やウマオイ(スイッチョン)を採用することで、楽曲全体の劇的なコントラストを生み出す狙いがあったと分析されています。
Q3:著作権は現在どうなっていますか?公共の場で演奏・配信しても大丈夫ですか?
A3:文部省唱歌『虫のこえ』は1912年の発表から100年以上が経過しており、作詞・作曲ともに著作権の保護期間が満了(パブリックドメイン)しています。学校行事、YouTubeなどの動画配信、地域の演奏会、商業用コンテンツであっても、原曲を演奏・使用することに関して著作権侵害の問題は発生しません(※ただし、特定の編曲者による新たなアレンジ楽譜や、既存の市販音源自体の原盤権は除きます)。
まとめ:時代を超えて響く『虫のこえ』の豊かな世界観
「あれ松虫が鳴いている」から始まる『虫のこえ』は、明治から昭和、平成、そして令和の時代へと、日本の豊かな季節感を伝え続けてきました。歌詞から消えたキリギリスの足跡をたどると、科学の発展とともに言葉を磨き上げてきた先人たちの情熱と、古来受け継がれてきた自然への深い慈しみが浮かび上がります。
秋の風が心地よく吹き抜ける夜、子どもたちや家族と一緒に夜空を見上げ、草むらから聴こえる音色に耳を傾けてみてください。100年以上の歴史を越えて歌い継がれる歌詞の意味を知ることで、虫たちが奏でる小さなオーケストラが、これまで以上に鮮やかに心へと響き渡るはずです。 (出典: 虫 の 声 歌詞(Yahoo!ニュース))